藤沢数希の人が統計をまるで理解していない件

年収1500万円以上の30代男子の妻帯率は9割超えてるよ : 金融日記


ネタにマジレスも何ですが、これはひどい。統計の元データにあたってみます。

統計局ホームページ/平成14年就業構造基本調査

そのものずばり「所得×男女×配偶者の有無」というデータはない*1のですが、人口分布による就業構造基本表の第41表を見ると、

  • 「30-34歳の所得1,500万円以上の男子」は日本に6,000人

と推計されていることがわかります。ということは、

  • 「配偶者のいる30-34歳の所得1,500万円以上の男子」は5,400人
  • 「配偶者のいない30-34歳の所得1,500万円以上の男子」は600人

と推計されていることになります。

しかし、この統計の誤差*2から考えると、この推計値の領域ではあまりに誤差が大きすぎて、上記の推計値はまったく意味のないデータであることがわかります。

そのようなデータを堂々とタイトルに出すのは、釣りか、本当にわかっていないかのどちらかですね。


*1:多分、オーダーメード統計を依頼しないと出てこない。

*2:http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2002/pdf/f_3.pdf

FITの件(続)

私がFITを良く分かっていないのは認めるが、太陽光パネルの調達価格や方針はおかしくないか: やまもといちろうBLOG(ブログ)
へのご回答の件。



 プロジェクトファイナンスのことを言っていますか?
 それであれば、将来的な価格下落を見越せる後発の日本の場合は、下方弾力性を持たせることも可能だということを言いたいわけですが、それでも価格下落が見込まれる長期固定の調達価格を前提とする必要がありますか。

もちろん、プロジェクトファイナンスのことを言っています。

  • 今年建設した設備の維持費・減価償却費は、当初の予定より下がりません。つまり維持費には下方弾力性はありません。
  • 来年建設する設備の建設費は、多分今より下がります。つまり初期費用には下方弾力性があります。

ということから、買取価格自体を6ヶ月に一度見直し、建設時の価格で20年固定という現行の制度設計自体は妥当でしょう。



 であれば、買取上限を設ける必要はあるんじゃないですかね。
 FITの基本と言いますが、それが失敗したのが高い値段で設定したスペインの太陽光バブルであるという認識なのですが、それは間違いでしょうか。

過剰に高い値段で設定したことが間違いであって、FITという制度自体が悪いわけではないでしょう。確かにスペインはFITを凍結しましたが、ドイツ・フランス・イタリアでなどは価格は大幅に下げていますがFIT自体は続けています。
あと、買取上限を設けるというのはアリでしょうね。もしくは、予め決められた量の買取枠を入札するとか。*1



少なくともパブコメの資料では、設置が完了した時点ではなく、計画が承認された時点のお話なのかと思うのですが、一番最初に起案された計画が承認されたら20年間買取確定という理解でいいですか。

どこにそんなことが書いてありますか?
初期費用は将来的に下がると予測されるので、計画だけしておいて固定買取価格の枠を確保しておけるのであればみんなそうすると思います(で、安くなってから建設する)。さすがにそのような欠陥制度ではないのではないかと。
今の住宅用の買取りと同じで、設備が完成して系統に接続して買取が始まった時点のFIT価格が適用になるものと思っています。



スペインの太陽光バブル崩壊は、価格弾力性が効く前に設置した大量の太陽光パネルプラントの電力買取が電力価格を押し上げ、慌てて政府が買い取り価格を引き下げようとしたが、既存設置分のオーナーシップ側から訴えられて、政府が敗訴するという事態になっています。
煽るも煽らないも、同じ轍を踏む必要がそもそもあるんですか。

そりゃあ、裁判になれば政府が負けるでしょう。日本でも同じことになったら当然負けると思います。
そうならないためには価格を高くしすぎないことが重要であることは、上で述べたとおりですね。



 日本の太陽光パネルに競争力がないとは言い切りませんし、新規技術があるようにも聴いていますが、東洋経済の記事ではここ一年半の大幅な市況下落と中国系パネルとの競争激化で、苦戦を強いられる国内メーカーの問題が取り沙汰されています。
これが、国内の調達価格が確定したら、さらに輸入比率は上がるんじゃないでしょうかね。

シャープの太陽電池事業が、1.2GWの生産で、240億円の赤字。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE81K1NA20120201

中国のサンテックパワー(専業メーカー)が、2.1GWの生産で、1,007百万US$の赤字。
http://www.solarbuzz.com/jp/industry-news/suntech-reports-fourth-quarter-and-full-year-2011-financial-results


赤字であることと「中国に負けている」ことは全く別物ですね。中国勢も赤字だから。競争力という面では、まあまあ互角の戦いをしていると思いますよ。

42円なら需要がかなり大きくなると予想*2されるので、輸入比率は上がるでしょう。もう少し価格を抑えめにして、日本勢の生産増強が追いつく程度の、過度ではない需要の増加が望ましいと思いますね。



実際には電力調達に関しては単純な経済原理だけでなく、安全保障の観点も加味しなければならないと思います。

安全保障の観点からはむしろ、ほぼ100%輸入の化石燃料よりは、再生可能エネルギーのほうが望ましいでしょう。
原子力はまた別物だし軍事のことはあまり知らないのですが、商業用発電と安全保障はそれほど関係あるかなぁ? と思います。安全保障最先進国のイスラエル原子力発電ゼロですからね。


*1:Wikipedia には『しかし固定枠制や入札制では、その主張に反して、いずれもその効果は固定価格買い取り制度に劣るものとなった[4][5]。』と書いてありますが、出典をあたっていないのでよくわからない。

*2:まあ、どれくらいバブるかは、やってみないとわからないのですが・・・

切込隊長の人がこれっぽっちもFITを理解していない件

太陽光発電買取がkW42円とな? ドイツじゃ14円なのに(追記あり): やまもといちろうBLOG(ブログ)

確かに 42円/kWh は高いので総論的には賛成出来る点もあるけど、各論が適当すぎ。
そもそも、少しでもまともに考えたことがある人が、kW と kWh を間違えるなんてことはあり得ないのですが。

  • 長期固定なのは当たり前。いくら技術が進歩しても、既に設置した太陽電池の性能は上がりません。
  • 現在のドイツをはじめとする、多くの欧州諸国も長期固定。
  • 長期固定のメリットはファイナンス。収益予測のぶれが少ない方が、低い資本コストで成立する。3年後以降の価格はわからないとリスクが増えて性質が株式に近づき、20年固定とすると債券に近づくので、後者のほうが低いIRRでの事業成立が見込める(=国民負担が減る)。FITの基本中の基本。*1
  • 設置時の買取価格で20年固定だけど、その価格は半年ごとに見直すので、その点は妥当。煽るためにわざと書いてないか、知らないかのどちらか。
  • 中国製のパネルが、と書いてあるけど、2010年現在はパネルは大幅な輸出超過(国内向け生産866MW、輸入125MW、輸出1,445MW)*2。国内メーカーはそれほど弱小ではないよ。*3


変に煽られて、頭悪い系なパブコメ嫌韓、嫌中系のアレ)が殺到しそうですね。戦略的にも、kWh あたり42円という価格に論点を絞った方が効果的と思います。



*1:もちろん、予め決まっていることがポイントなので、何年ごとに何パーセント下がる、と予め確定しているのなら大丈夫ですけどね。

*2:http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2011fy/E001389.pdf の p5 参照

*3:アメリカで中国メーカーは反ダンピング認定されているが、日本メーカーはされていない。日本メーカーに競争力があることの証明です。http://jp.wsj.com/US/Economy/node_444675

わざと誤解する戦術の例

http://ulog.cc/a/fromdusktildawn/17554

まったくその通りですね。そのよい具体例を、最近見つけました。



しかし最近の文脈では「短納期化と低コスト化する中で、ユーザーの要件を確実に、高品質に、より短期間で提供できていない」という課題に対して、「低コストで速く作れるソフトウェア開発」というニーズに応えるものが必要で、それを「アジャイル開発」と呼んでいるようです。

と書いてありますが、その元ネタのNTTデータのサイトを見ても、「安い」「低コスト」なんてどこにも書いてありません。過去のNTTデータのリリースや記事にもそのようなことは書いてありません。そもそも、SI業界1位のNTTデータは、低コストを武器にして案件を受注するタイプの会社ではないはずです。

つまり、「そう言いかねない」というだけで勝手にでっち上げた話と言えるでしょう。

ただし、これは橋下市長のような「発狂トリガー」ではないので、ネット上で炎上はしません。ブックマークを見ても、みんな「そうだそうだ」の大合唱です*1

アジャイルという新しい考え方に深くコミットするITエンジニアが、情報リテラシーが低いはずがない*2ので、これは故意でしょう。つまり、「リテラシーがないから誤解した」のではなく、「誤解した方が得だから誤解した」のです。

これがまさに、id:fromdusktildawn 氏のいう


しかも、この「誤解した方が得なときに誤解する」という行動は、なかなかに効果的で、それは職場でも家庭でも友人知人関係でも、日常いたるところで行われている権力闘争の一形態だし、それが大きなうねりになって、政治を動かし、歴史を動かしていく。
しかも、さらにやっかいなことに、それが結果的に正義を実現することもある。
手段は邪悪でも、必ずしも、それが引き起こす結果まで邪悪とは限らないのだ。
正義の実現に卑怯な手段が使われたことなど、いくらでもあったのが、人類の歴史だ。

でしょうね。
「人民の敵」であるITゼネコンをけなすという「正義*3」の実現のためには、これは仕方のないことなのです。:-p


こうやって考えると、むしろ、あるキーワードが「発狂トリガー」であるうちは、まだ健全なのかもしれませんね・・・



*1:ちなみに、私もそう書いています。その方が得ですからね。

*2:ここは議論の余地アリかも。

*3:ネット世論内の正義、特にスラドはてな・マ板系の世論ですかね。

単価設定さえ正しければ人月は正しい


その人だけ2倍〜3倍の単価設定ができるわけでもない。

なぜできないのかがさーっぱりわからない。2倍〜3倍の単価設定をすればいいのでは。
皆さんご存じの通り、優秀なエンジニアとそうでないエンジニアでは、生産性はそれ以上に違うんだから。


SI系の会社がそれをやらないから、優秀な人にはそういう報酬を払える給与体系にしているソーシャルゲーム業界に優秀な人を引き抜かれるんですよね。


DeNAの初任給1000万円、グリー1500万円で分かるスマホブーム|NEWSポストセブン


内製について考える − 本業とは? コア業務とは?

システムはどこまで内製化できるか - 急がば回れ、選ぶなら近道


今の日本の経営陣の基本的なスタンスは一般化すれば、「ITは経営の背骨である。ITがしっかりしていない企業は早晩衰退する」という考えと「うちの本業はITではない」という考え方のふたつに収斂されるでしょう。

多分、そういう答えが返ってくると思います。そして、後者と答えた経営陣に、なぜそう思うのかと尋ねると、「コアコンピタンス経営資源を集中して資本効率を高めることがグローバル化した市場からの要請で・・・」などという答えが返ってくると思います。

では、市場主義の本家本元の米国ではどうなのでしょうか?



よく言われているとおり、米国では情報システムについては内製が主です。ところが逆に、例えば製造業でのアウトソーシング、EMS*1やODM*2の活用が進んでいるのは、むしろ米国です。実は、米国では必ずしも「本業に経営資源を集中」はしていないのです。

合理主義の彼らは、どのように内製・外注を使い分けているのかというと、それは「取引コスト」です。

製造をEMSに発注するとき、EMSが取るマージンは極めて低いです。例えばアップルの iPhone 4S の場合では、EMSの取り分は5%程度と言われています。*3

それに比べて、SIerの場合はどうでしょう? だいたい、年収600万円のエンジニアで最低、人月150万円。年収800万円のエンジニアで、人月200万円くらいの値付けをします。エンジニアの給料の3倍は最低取ります。言い換えれば、SIerの取り分は60%程度とも言えます。でも、別にこれはSIerが必要以上にぼったくっているわけではないことは、上場SIerの決算を見ればわかります。こうなってしまうのには理由があるのです。

その理由の1つめは、SIer側から見て、受注プロセスが長いことです。RFIに答えて、打ち合わせを重ねて提案して、それでやっと何社かのコンペを勝ち抜くというプロセスに極めて多くのコストがかかっているのです。お金をもらって働く割合、いわゆる「稼働率」がさほど高くならないのです。もちろん、人材派遣的なところ*4にお願いすればもっと安くなりますが、彼らはRFIRFPには答えて提案書を書いてはくれませんし、成果の保証をしてくれません。SIerも彼ら人材手配屋を使っているので、ある意味SIer保険業者の役割を果たしています。それが、コストが高くなる2つ目の理由です。

SIerとの取引が「火災保険」みたいなものだとします。そうすると、


・相手の立場にたって考えて、話す。
・基本的にSIのコストはずべて「時間」に還元されます。なので、如何に「工数=時間」がトータルで削減されるか?ということを考える。
・想像ではなく、事実と経験と論理で話す。
・技術を理解しようと努める。
・ベンダーも人間ですよ、ということを理解する

というのは、発注者(保険加入者)が「火の元に気をつける」みたいなものです。素晴らしいことで、本来やるべきことです。しかし、残念なことに多くの場合、このようなことをしても普通は保険料は安くなりません。なぜなら、契約をするまではほんとうに発注者がそのように振る舞ってくれるかどうかわからないからです。契約上は、いったん納品請負で発注してしまえば、発注者側にはSIer工数=時間を削減してあげるメリットなんてありません。経済学の用語で言う「逆選抜*5」が発生することになります。これによって、取引コストは高くなります。*6

となると、発注者(ユーザ企業)がとるべき方法は、経済学の用語で言うところの内部化、すなわち内製ということになります。もしくは、情報の非対称性が発生しにくいパッケージの導入*7ということになります。米国の会社のやり方が常に優れているというわけではないですが、ことユーザ企業のシステム調達に対する考え方では、合理性の面で一歩前に行っていると思います。もちろん、米国ではレイオフがしやすいから内部要員を気軽に抱えられる、という面はあるでしょう。それならば、ユーザ企業が直接「人材手配屋」から技術者を委任または派遣契約で調達すればいいのです。それだけで取引コストは削減できるのです。

*1:Electronics Manufacturing Service

*2:Original Design Manufacturer

*3:iPhone 4S Carries BOM of $188, IHS iSuppli Teardown Analysis Reveals

*4:必ずしも派遣契約ではなくて請負契約を偽装していることも多々・・・ゲフンゲフン

*5:http://ja.wikipedia.org/wiki/逆選抜

*6:SIerの決算を見ると、赤字(予算超過)プロジェクトの費用という形で表れますね。

*7:受託開発と違って、パッケージは契約前に実物を見ることができますから、情報の非対称性の程度は低くなります。

TPPで日本は台湾化する?

TPP反対・中野剛志の解説がわかりやすすぎる! : 座間宮ガレイの世界
グローバリストを信じるな - 内田樹の研究室
主にTPP反対派のブログが、多く HotEntry にあがってきています。これらの意見にはブックマークコメントに書いたとおり否定的な私ですが、他方TPP賛成派も「乗り遅れるな」とか「平成の開国」とか抽象的な意見が多くて、地に足の付かない空中戦の様相を呈しています。


私の賛同できるまともな意見は、


輸入自由化は消費者にとって消費に必要な支出の減少をもたらすとともに、価格低下による消費量の増加によってさらに追加的な利益を得ることを可能とする。これは、生産者(農家)の被る損失を大きく上回ることとなり、このために輸入自由化はその国に大きな経済的利益をもたらすことになるのである。
の通りなのですが、なかなか「輸入自由化はその国に大きな経済的利益をもたらす」といわれても、その具体的イメージが湧かないというのも正直なところと思います。


一般に、先進国は付加価値の高い工業や商業が強く*1、農作物は輸入をするのが有利というのが普通です。そこで、アジアで日本より(一人あたり購買力平価ベース)GDPが高い国/地域を、自由化後の日本に近いイメージの国、ということで以下に挙げてみます。

購買力平価ベースGDP(US$)名目GDP(US$)
シンガポール56,52243,117
ブルネイ48,89231,239
香港45,73631,591
台湾35,22718,458
日本33,80542,820

見るとわかるのは、日本以外は、購買力平価ベースのGDPのほうが、名目GDPより大きいということです。これは、国内の物価が安いと言うことです。これらの国に実際に行くと、物価、特に食料品は日本よりもかなり安いことがわかるでしょう。そして、これらの国/地域は共通して日本より食糧自給率が低いです。

ということで、これらの国に旅行や仕事で行ったことのある方は、物価水準や生活水準的に「こういう感じの暮らしになるのかな」くらいのイメージが持てるのではないかと思います。シンガポールや香港は都市国家だし、ブルネイはマイナーかつ、産油国で特殊なので、台湾が一番イメージに近いかもしれませんね!


*1:米国やオーストラリアのような広大な国土を持ち、大規模な機械化営農をしている例外は除く。