内製について考える − 本業とは? コア業務とは?

システムはどこまで内製化できるか - 急がば回れ、選ぶなら近道


今の日本の経営陣の基本的なスタンスは一般化すれば、「ITは経営の背骨である。ITがしっかりしていない企業は早晩衰退する」という考えと「うちの本業はITではない」という考え方のふたつに収斂されるでしょう。

多分、そういう答えが返ってくると思います。そして、後者と答えた経営陣に、なぜそう思うのかと尋ねると、「コアコンピタンス経営資源を集中して資本効率を高めることがグローバル化した市場からの要請で・・・」などという答えが返ってくると思います。

では、市場主義の本家本元の米国ではどうなのでしょうか?



よく言われているとおり、米国では情報システムについては内製が主です。ところが逆に、例えば製造業でのアウトソーシング、EMS*1やODM*2の活用が進んでいるのは、むしろ米国です。実は、米国では必ずしも「本業に経営資源を集中」はしていないのです。

合理主義の彼らは、どのように内製・外注を使い分けているのかというと、それは「取引コスト」です。

製造をEMSに発注するとき、EMSが取るマージンは極めて低いです。例えばアップルの iPhone 4S の場合では、EMSの取り分は5%程度と言われています。*3

それに比べて、SIerの場合はどうでしょう? だいたい、年収600万円のエンジニアで最低、人月150万円。年収800万円のエンジニアで、人月200万円くらいの値付けをします。エンジニアの給料の3倍は最低取ります。言い換えれば、SIerの取り分は60%程度とも言えます。でも、別にこれはSIerが必要以上にぼったくっているわけではないことは、上場SIerの決算を見ればわかります。こうなってしまうのには理由があるのです。

その理由の1つめは、SIer側から見て、受注プロセスが長いことです。RFIに答えて、打ち合わせを重ねて提案して、それでやっと何社かのコンペを勝ち抜くというプロセスに極めて多くのコストがかかっているのです。お金をもらって働く割合、いわゆる「稼働率」がさほど高くならないのです。もちろん、人材派遣的なところ*4にお願いすればもっと安くなりますが、彼らはRFIRFPには答えて提案書を書いてはくれませんし、成果の保証をしてくれません。SIerも彼ら人材手配屋を使っているので、ある意味SIer保険業者の役割を果たしています。それが、コストが高くなる2つ目の理由です。

SIerとの取引が「火災保険」みたいなものだとします。そうすると、


・相手の立場にたって考えて、話す。
・基本的にSIのコストはずべて「時間」に還元されます。なので、如何に「工数=時間」がトータルで削減されるか?ということを考える。
・想像ではなく、事実と経験と論理で話す。
・技術を理解しようと努める。
・ベンダーも人間ですよ、ということを理解する

というのは、発注者(保険加入者)が「火の元に気をつける」みたいなものです。素晴らしいことで、本来やるべきことです。しかし、残念なことに多くの場合、このようなことをしても普通は保険料は安くなりません。なぜなら、契約をするまではほんとうに発注者がそのように振る舞ってくれるかどうかわからないからです。契約上は、いったん納品請負で発注してしまえば、発注者側にはSIer工数=時間を削減してあげるメリットなんてありません。経済学の用語で言う「逆選抜*5」が発生することになります。これによって、取引コストは高くなります。*6

となると、発注者(ユーザ企業)がとるべき方法は、経済学の用語で言うところの内部化、すなわち内製ということになります。もしくは、情報の非対称性が発生しにくいパッケージの導入*7ということになります。米国の会社のやり方が常に優れているというわけではないですが、ことユーザ企業のシステム調達に対する考え方では、合理性の面で一歩前に行っていると思います。もちろん、米国ではレイオフがしやすいから内部要員を気軽に抱えられる、という面はあるでしょう。それならば、ユーザ企業が直接「人材手配屋」から技術者を委任または派遣契約で調達すればいいのです。それだけで取引コストは削減できるのです。

*1:Electronics Manufacturing Service

*2:Original Design Manufacturer

*3:iPhone 4S Carries BOM of $188, IHS iSuppli Teardown Analysis Reveals

*4:必ずしも派遣契約ではなくて請負契約を偽装していることも多々・・・ゲフンゲフン

*5:http://ja.wikipedia.org/wiki/逆選抜

*6:SIerの決算を見ると、赤字(予算超過)プロジェクトの費用という形で表れますね。

*7:受託開発と違って、パッケージは契約前に実物を見ることができますから、情報の非対称性の程度は低くなります。