「ドーパミンが出る仕事をしよう」を信じないでください

ビジネスの話、人生の話に「ドーパミン」「ノルアドレナリン」といったものを持ち込んで話をする人がいます。


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アンカテ(Uncategorizable Blog) - なぜドーパミンが出ない所で仕事を探すんだろ?


これらは、「脳内革命」などに非常に類似した、いわゆる「疑似科学」的性質を持っています。
誠実な大脳生理学者に『ドーパミンが沢山出ている人は仕事ができる人なの?』と聞いても、『そういう考えもできなくはないかもしれないけど、必ずしも単純にそうは言えないし、ぶつぶつ・・・』などと、あいまいで歯切れの悪い回答が返ってくるでしょう。それが自然に対する誠実さだからしょうがないのです。まだまだ脳内の生理について、特に高度な人間の意志や感情との関連では、わからないことだらけであることを誠実な科学者は認めます。
ところが、疑似科学は違います。『ドーパミンは善』『ノルアドレナリンは悪』『ドーパミンが出る仕事をしよう』と非常にわかりやすく白黒を付けてくれます。この思い切りの良さは、本当の科学には決して期待できないものです。しかし、一般人の科学に対するパブリックイメージはむしろこちらなのでしょう。むしろ疑似科学は、科学よりも科学らしく見えているのかもしれません。


誤解されるといけないので言っておきますと、私は上記のどちらのエントリーにも論旨的には賛成です。仕事をする上、生きて行く上でのよい指針になり得るエントリーだと思います。ただ、そこにドーパミンノルアドレナリンといった用語を持ち出すことは間違っています。理由を推測すると、一見科学的に見える説明を持ち出すことにより自説を科学的根拠のある、より立派なものに見せようという考えがあるのではないでしょうか? このような疑似科学は、誠実な科学への冒涜であると私は思います。


また、もうひとつの危険な点として、差別や誤った行動を引き起こす可能性があります。例えば「パーキンソン病」は脳内のドーパミンの濃度が下がる現象の見られる病気です。ドーパミン言説を信じる人が『パーキンソン病患者はドーパミンが出ないから仕事ができない』と安易に判断し、結果的に差別を引き起こすことになるかもしれません。またドーパミンの分泌を促す薬物、例えばコカイン・覚せい剤リタリン・ニコチン・カフェインなどを安易に使用することにつながるかもしれません。


「水からの伝言」の件で大阪大学の菊池先生がおっしゃっておられたように、「道徳を科学で裏付けようとしない」ことが一番だと私も思います。