『マスコミが報じない危険な航空会社リスト』を批判する

マスコミが報じない危険な航空会社リスト』がはてブ1位になっていますが(2007/08/23現在)、ブクマコメントを見る限り、みなさん何かおかしい事には感づいている様子です。
簡単に私の気づいたおかしい点をまとめて見ます。ここでは、統計的におかしい点だけに絞っています。(*1)


まず、これは元ネタは http://www.planecrashinfo.com/rates.htm ですね。
元ネタレベルからおかしい点もありますし、日本語のエントリにだけ問題がある点もありますね。


また、考察用に参考ファイルを置きましたので、参照してみてください。
http://spreadsheets.google.com/pub?key=pGw5Kcsn5eK4cbDn29HS6aw


問題点1.何の順位か書いていない

日本語訳のほうには何の順位か定義が書いてありません。元ネタのほうにはちゃんと書いてあります。どんな基準で点数付けしたのかがわからなければまったく意味がありません。


問題点2.計算間違いが多い

これは元ネタからおかしい点です。最下位は中華航空(China Airlines)で4.59点、ワースト2はクバーナ航空(Cubana)で3.98点となっていますが、実はクバーナ航空は計算ミスで1点実際より少なく、実際は4.98点でワースト1。中華航空はワースト2なのです。
ほかにも、多くの計算ミスが見受けられます。手計算なんでしょうか? 参考ファイルのI列に正しい計算結果を、J列にはそれに基づく順位を出しています。
また、これだけAccident Rateの計算にミスが見られるということは、元の数字(フライト数、死亡事故件数、調整後死亡事故件数)の信頼性にも疑問符をつけざるを得ないと思います。(とりあえず以下はそのことには目をつぶって書いています)


問題点3.計算式がおかしい

これも元ネタからおかしい点です。


Accident Rate = (actual number of accidents - expected number of accidents) or

Accident Rate = D - (A *(B/C))

where
A = number of million flights completed by the airline
B = sum of fatal events for all airlines
C = sum of million flights for all airlines
D = adjusted fatal events

(actual number of accidents)のほうはDなので調整後(adjusted)の値が用いられていますが、(expected number of accidents)のほうは未調整の値をもとにしています。つまり、「多く引きすぎ」になっていて、本来Accident Rateは全航空会社の平均が0になるべき指数なのに、平均がマイナスになり、またフライト回数の多い航空会社に有利になってしまっています。
正しくは、Bは「sum of adjusted fatal events for all airlines」であるべきですね。参考ファイルのL列に正しい計算式での結果を、M列にはそれに基づく順位を出しています。
フライト回数も多いが事故件数も多い UA、NW、US Airwaysの順位が大幅に下がりました。


問題点4.そもそもこういう考え方の計算式でいいの?

これも元ネタからですが、そもそもこの『Accident Rate』の計算方法は、実際の死亡事故件数から、平均すれば起こるだろう死亡事故件数を引いたものです。つまり、同じ死亡事故確率であったとしても、フライト回数の多い航空会社は、値の絶対値が大きく出てしまいます。もっと単純に死亡事故確率だけで比較したほうがよいのではないでしょうか?
ということで、シンプルに (調整後死亡事故件数)÷(フライト回数) つまり、D/A の指数も出してみました。ゼロの会社が多いので、ゼロの会社の中ではフライト回数の多いほうが順位は上にしてあります。参考ファイルのO列にこの考えでの計算結果を、P列にはそれに基づく順位を出しています。
ANAが4位、JALが6位になり、アメリカ勢は大幅に順位を下げました。





(*1)
と書きましたが、統計的以外の面でも煽りが過ぎると思われる点があるので指摘しておきます。


問題点5.「安さの陰には裏がある」は言い過ぎ。煽り過ぎ。

これはうそ。はてブでも id:welldefined さんが「"やはり「安さの陰には裏がある」"←JALより安全とされたノースウェストの方が安いんですが・・・」と至極もっともな疑問を呈しています。
実は、価格差の大きな理由は、「日本人は日本の航空会社を好む」というだけなのです。確かに日本で台北行きの格安航空券を買うときは、中華航空エバー航空より、ANAやJALのほうが高いのが通常です。しかし実は、台北では逆で、エバー航空中華航空のほうが高いのです。「台湾人は台湾の航空会社を好む」のです。実際の台湾の旅行会社のHPの価格表のリンクを載せておきます。
http://www.katsumi.net/ticket/ticket_00.htm

日本でANAやJALの航空券が高いのは、安全にコストをかけているから高いのではなく、日本人は日本の航空会社をより好むから高い値段でも買うだろうと(悪い言葉で言えば)足元を見られているだけなのです。まぁ、価格を決めるのは消費者の選好であるという、市場経済ではごく当たり前の話です。

なお、自国の航空会社を好む理由はいろいろあると思いますが、ひとつに「マイレージ」があると思われます。日本人を例に出せば、台湾に行くときはエバー航空、上海に行くときは中国東方航空、米国に行くときはノースウエスト・・・などとやっているとばらばらにマイルがたまるため使いにくい(使えない)です。一般に、日本人なら日本の航空会社のほうがマイルをためやすいです。
ここからは余談ですが、類推して考えると、最近流行の「航空会社間アライアンス」には、「他国に乗り入れるときに他国発の航空券の相場を上げる」効果もあると言えると思います。実際、最大手アライアンスの「スターアライアンス」加盟のUAの航空券は、NWやAAより高いことが多いように思われます。