グレーゾーンを許さなくなった日本社会


日本全国「コストセンター」のほうの力が強くなりすぎて、アンバランスの問題が起こっているということなのだろう。
不機嫌な日本全国コストセンター化(その2)- Tech Mom from Silicon Valley

日本というのは、これまで、グレーゾーンを恣意的に残し、運用でうまくやっていく、というやり方が多かったように思います。恐らく、優秀な官僚が日本の高度成長を引っ張ってきたころは、そのようなやり方が(立法(国会)に縛られずに、官僚の運用での裁量を大きくして自由度を高める意味で)役立っていたのだと思います。
わかりやすい例で言えば、制限速度を50kmの道路を、みんな60kmで走って流れているということです。

ところが、日本全体が、このようなグレーゾーンを許さず、厳しく罰しようという風潮になってきていると思います。不二家の件にしても、赤福御福餅の件にしても、「みんなやっていたことなのに運が悪い」と当事者は心の底で思っているでしょう。これまで暗黙のうちに許されていたこと(50km制限の道路を60kmで走るような)が、突然「極悪大犯罪」となって会社存続が危うくなるほどの罰(*1)を科されることが現実としていろいろ起きているように思います。

私には、「upward potentialを過小評価」というより、「downside riskを過大評価」している、(もしくは実際にdownside riskが大きくなっている)ので、「コンプライアンス」が絶対的価値を持ち、「コストセンター」のほうの力がより強くなって、バランスの変化(*2)が急激に起こっている、と感じています。海部さんは『「マイナス部分」は「コスト」という形で確実に見える』と書かれていますが、私には「マイナス部分はリスクという形で過大評価されている」のが現状ではないかと思っています。

このようなやり方は法律だけでなく、社内ルールにも多くありました。私はシステム構築業界にいますが、ISO-9000, 社内品質規定, CMMI, 偽装請負排除, 個人情報保護, 機密保護、下請法, 残業規制(36協定), ISO-14000, ソフトウェアライセンス etc... とすべて完璧に100%守ることは、プロフィットセンターの主体である各プロジェクトマネジャーには事実上不可能です。これまでは、プロフィットを上げることが優先だったので、このようなコンプラは後回しでなぁなぁでやってきた部分がある(*3)と感じています。

ところが、昨今は本気で経営陣はコンプライアンスを強制しだしています。偽装請負はやめてPJルームから請負要員を排除したり、夜xx時になると強制的に執務室を消灯して残業ができなくしたり、そういう実効的な強行策を打ち、グレーゾーンをなくそうと各社経営層が本気を出してきました。恐らく、今後実際にプロフィットに悪い影響が出てくるところも多いと思います。(*4)

私には今の水準が「合理的」と言える水準かどうかはわかりません。しかし、「コンプライアンスも絶対的正義ではない」ことを忘れず、両者のバランスを考えていかないといけないと思っています。一般には管理側のイメージの強い公認会計士の方でさえ『「クジャク化」する社会』に危惧を抱いていることは何かを示唆していると思います。



(*1).刑事罰、行政罰のみならず、社会的な罰(評判低下など)も含みます。
(*2).これを「アンバランス」と言い切ることは私にはできません。これまでがアンバランスだったのかもしれないとも思います。
(*3).まぁそれが恒常的残業に繋がったり、偽装請負につながったり、うつ病・自殺多発に繋がってきたわけではありますが。
(*4).b:id:fromdusktildawn さんが海部さんのエントリーへのブクマコメで言っていたとおり、ここに大企業に対して付け込むスキがあると思います。どんどんフレッシュな新興勢力が出てきて、旧態依然とした大企業を脅かす存在になってほしいと思います。Web業界はベンチャーの優位が確立していますが、SI業界にはベンチャーの星は出てこないのなかぁ。



b:id:citron_908 downside riskが大きくなっている、その理由は何だろう。

「事前規制型社会」から「事後規制型社会」へ社会の仕組みが移行する際の産みの苦しみ、と私は考えています。このような状況下では、いかに新しい価値観に適応するか、過剰反応による萎縮から逃れられるか、が競争力の源泉のひとつとなり得ると思います。
こういう状況では、新しいプレイヤーが参入する機会も大きいし、既存のプレイヤーがシェアを大きく伸ばす(もしくは大きく失ったり、市場から退場させられたり)ということが実際に起こると期待しています。