「水平分業」は必然か?

最近 blogosphere(笑) で、トヨタ自動車の赤字転落と結びつけて、垂直統合から水平分業へのビジネスモデル転換みたいな論をよく目にします。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/ef3717e9e0e6567129692656b0d8bfd9
http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10183862948.html

上記の両方とも、いくらかの事実誤認や、あんまりな希望的観測が含まれていると思います。

まず、トヨタ自動車は、水平分業で市場に参入した新会社に負けてシェアを落として赤字になったわけではありません。IBMが凋落した時とはここが根本的に違います。MSとIntelに相当する会社がないのです。池田先生は印 Tata Motors の Nano を引き合いに出していますが、私は Tata が水平分業とは思わないし*1、何より Nano は今現在まだ販売にこぎ着けられていません。*2 *3

また、電気自動車になれば水平分業になるという堀江さんの論もありますが、残念ながら私はこれが現実化するとしても、もう1回くらい不況と好景気の波をかいくぐった後と思います*4。堀江さんは「この不況はそのような構造改革を推進する好期となろう。」と書いてますが、ちょっとさすがに無理過ぎね? と私は思います。

あと、そもそも内燃機関だけの問題でもないと思います*5。自動車はモジュール間I/Fの部分にきっちりと決まった規格がない*6から、すりあわせが必須なのです。堀江さんは元プログラマーなのでわかると思いますが、多くのSIerがやろうとしているような、設計と製造の水平分業*7は、設計書をきちんと書いて承認してから次工程へ進む Watarfall 型のシステム開発でないとなかなかうまくいきません。Livedoor さんみたいな会社では、恐らくスピード的な要因で、Watarfall 型のシステム開発は採用していないでしょう。実は、製造業も一緒なのです。車や航空機のような「でかい」物を作る会社は、Waterfall 的にやっていては途方もない時間がかかってしまいます。トヨタ自動車と ISO9001 の長年にわたる不和は有名です。「すりあわせ」というのは「工程間の情報伝達はレビュー済み書類で行う」というISO9001的手法に対するアンチテーゼなのです。航空業界でも、米 Boeing 社がこのような手法を取っていることを5月4日のブログでご紹介しました。*8

もちろん、コモディティ化するにつれ、水平分業モデルになっていくと言うのは一般論として正しいと思いますし、それが消費者の利益にもなるでしょう。でも、現実性は別問題ですから。


*1:そもそもグループ内に鉄鋼会社まで抱え込むという Tata のコングロマリット体質は、水平分業とは真逆でしょう。

*2:今年1月の発表会では、今年の第二四半期に発売する! と言っていたんですがねぇ・・・

*3:池田先生は「インドでもタタが30万円以下の自動車を出した。」とか、まるで既に販売されているように受け取れる書き方をしますが、これってどうなの? 発表会をしたから「出した」ってこと?

*4:「20世紀に間に合いました!」というキャッチコピーをひっさげて世界初の市販向けハイブリッド車プリウスが販売されたのが、11年前の1997年です。電気自動車が新車乗用車販売台数ランキングの上位5位に入るのは何年後でしょうね?

*5:ついでに言うと、電気モーターの部分なら容易に水平分業になるとも思ってないけどね。

*6:言うまでもなく、iPod の調達価格の大部分を占める Flash memory は規格化されています。

*7:プログラミング工程は中国・インドのオフショアに発注、みたいな。

*8:ここまで読んでご想像の通り、Waterfall = ISO9001 と置き換えてもほぼ正しいです。どちらかの言葉しか知らない方のご参考まで。