日本人がリスクに対して慎重な民族?


この一つの遺伝子だけでは決まらないにしても、日本人がリスクに対してかなり慎重な民族である、という可能性は強く示唆されるのではないかと思います。


とありますが、私は、コメント欄に MO さんが書かれている、『「不安を感じやすい」ということは、必ずしもリスク回避の方向ばかりに働くわけではないかもしれません』という意見のほうに賛同します。

エントリ中で参照されている藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門のこのテレビ番組の補足説明には



セロトニントランスポーター遺伝子は、このタンパクをコードする遺伝子です。この遺伝子の発現をコントロールするプロモーター領域にS型とL型という2種類のタイプがあります。マウスでもヒトでも染色体は各2セットずつありますので、両方ともS型の人(SS型)、片方がS型でもう一方がL型の人(LS型)、両方ともL型の人(LL型)、という3種類の人がいることになります。
(中略)
この型が人の経済活動の判断にまで影響を及ぼしているということ(Roiser et al., 2009)が報告されています。


とありまして、「人の経済活動の判断にまで影響を及ぼしている」とは書いてありますが、「(日本人に多い)S型がリスクを回避したがる」とまでは書かれていません。ということで、Roiser et al., 2009 の論文を参照します。insciences に解説記事があるので、これを見てみましょう。



"This doesn't mean that people with the short variants are risk takers," explains Dr Roiser. "In fact, they were risk averse in the 'gain frame' while risk seeking in the 'loss frame', which implies inconsistency in their decision-making.


つまり、S型(short variant)の遺伝子を持つ人がリスク回避かリスク選好かということを意味するのではなく、S型の遺伝子を持つ人は「フレーミング効果」を受けやすいというのが実験の結果です*1

フレーミング効果はプロスペクト理論によって説明されるとされ、行動ファイナンス理論の基礎となる考え方です。S型の遺伝子を持つ人のほうが house-money effect や snake-bite effect も受けやすいとも類推できるので、バブルの影響を日本がより強く受けることの説明の一つになるかもしれません。


一部ブックマークにお返事


b:id:pollyanna ああ、これ気になってたんだ。(えと、当然のことですが、一遺伝子で説明のつく現象なんかありません)

一遺伝子ですべての説明がつくとするとトンデモさんですが、この一遺伝子(セロトニントランスポーター遺伝子)の寄与が部分的には確かにあることは、この研究で証明されていると言っていいと思います。論文のfull paperは入手していないので読んでないですが、有意差があることが統計的に示されているんだと思われます*2



b:id:Nagise 遺伝子で民族は語れるか否か。複雑系だから計測不可能な感じはするけど。

「語る」というのが何を意味するかですよね。有名どころではABO式血液型も、人種が違えば割合が変わってくることは統計的に知られているわけですから。

あと、ハプロタイプを解析することで、人類の移住の歴史を推定するような研究も行われています。

http://wiredvision.jp/news/200805/2008051419.html



b:id:KoshianX メディアに流されやすいのもそのせい?

推論としてはおもしろいかもしれませんね。テレビ伝道師なんてものが社会で大きな影響力を持っているアメリカさんも十分メディアに流されやすいと言えるような気もしますが・・・



b:id:itsu0227 慎重で無いやつは村八分にされたり切腹させられたり、小船で大洋に出て藻屑になったり大陸や半島に渡っていってしまたりとか、、、、で引きこもりだけ残ったと。

これまた推論としてはおもしろいですが、多分この遺伝子の寄与はさほど大きくない上に利点と欠点が裏表のような気がするので、私は創始者効果のほうが大きいんじゃないかなという気がします。



b:id:shino-katsuragi 現状は「なますを吹きすぎ」ってか。/石塚夢見さんの「愛のように幻想りなさい」を思い出した。

いやー、どうでしょう。いつの間にか日経平均1万円超えちゃってますけどね。

個人的には、工場の稼働率なんかは今年の3月くらいが底だったような気がしますが、それは「なますを吹きすぎ」というより、在庫調整という側面のほうが大きかったように思います*3



*1:逆に、L型の遺伝子を持つ人はS型の遺伝子を持つ人より「合理的経済人」に近いともいえるでしょうね

*2:もちろん、そういう意味でおっしゃっているのだと思いますが・・・

*3:余剰在庫がはけるまでは、需要の落ち込みより余分に生産調整が必要。