0歳赤ちゃんマーケティング考察(ユニ・チャーム ブランド戦略編)

「0歳赤ちゃんマーケティング考察 vol.1 ムーニーのオムツがスゴい」 - kobeniの日記
「0歳赤ちゃんマーケティング考察 vol.2 ベネッセってやっぱりスゴい」 - kobeniの日記

に関連して



andalusia business 同じユニチャームでなぜ「マミーポコ」とブランドを分けているのかとか、なぜマミーポコでは成長度表示になっていないのかとか。/ あと普通、それのことを「商品セグメント」とは言わない。(と厳しめブクマ)

とブクマしてしまったので、これを掘り下げて考察してみます。

まず、前提としてユニ・チャームのベビーケア用紙おむつシェアは 42.3%*1 です。これは、ランチェスター戦略でいうところのシェアの安定目標値41.7%*2を上回っています。つまり、ユニ・チャームは安定首位のシェアを持っているということです。

これを言い換えると、ユニ・チャームは価格支配力(独占力)を持っているということです*3。価格支配力を持っている企業は、「価格差別」によってより高い利潤を得ることができます。



つまり、需要の価格弾力性の高い顧客層には低価格帯の「マミーポコ」ブランドを、需要の価格弾力性の低い顧客層には高価格帯の「ムーニー」ブランドをあてるという戦略をとっているわけですね。また、ここで重要なのは、需要の価格弾力性とマージン(利益率)の間には通常負の相関があるということです*4。つまり、ムーニーブランドのほうがユニ・チャームにとっては利益率が高いと思われます。

さて、ここで重要な点ですが、現在「マミーポコ」ブランドはMサイズからの展開となっています。つまり、新生児にはマミーポコという選択肢は用意されていないわけです。前述したようにムーニーブランドのほうがユニ・チャームにとっては利益率が高いので、なるべく顧客をムーニーブランドに誘導したいわけです。これは id:kobeni_08 さんがベネッセのところで指摘されている「顧客維持型マーケティング」の一例でしょう。選択肢をなくしてしまうことで、新しい顧客(新生児の親)をムーニーブランドに誘導する。そうすれば、一旦ムーニーブランドに愛着を持ったユーザーは、ずっとムーニーブランドを愛用してくれる可能性が高いということです。

あのムーニーのCMも、赤ちゃんのためならお金を惜しまないという層(価格弾力性の低い顧客層)を取り込もうという戦略の一端でしょうね。http://mainichi.jp/enta/geinou/graph/200812/16/index.html によると、昔の「♪はっかせるオムツ、ムーニーマン!」のイメージをチェンジする狙いがあるとのことです*5。新生児の親の顧客層や、赤ちゃんのためならお金を惜しまない顧客層(=価格弾力性の低い顧客層)を取り込む狙いがあるのでしょう*6

また、「ムーニー」ブランドでは成長度表示を、「マミーポコ」ブランドでは従来のサイズ表示をすることにより、「ムーニー」ブランドから「マミーポコ」ブランドへの乗換えを防ぐ意味合いもあるのだと思います*7


なお、「セグメント」という語ですが、普通そう言う時は各セグメントに対して異なる施策を打つことが前提であるときに使うように思います(少なくとも私の周りでは)。ここでは、「赤ちゃんのためならお金を惜しまないという(価格弾力性の低い)顧客層」と「なるべく1枚単価の安いものをほしいという(価格弾力性の高い)顧客層」という「顧客セグメント」に対して、「ムーニー」と「マミーポコ」という異なるブランドをあてる、というコトバの使い方が普通なのかなーと思います。



*1:http://www.unicharm.co.jp/csr/csr_account.html より

*2:http://www2k.biglobe.ne.jp/~yano/LAN.html より

*3:さらに言い換えると、ユニ・チャームはベビーケア用紙おむつ市場で「右下がりの需要曲線に直面」しているということです。

*4:http://rio.andrew.ac.jp/~yane/class/micr/2a.pdf#page=20 わかりやすくいえば、「マミーポコ」ブランドは薄利多売用ブランドということ。

*5:どうでもいいですが、これを考えたのが電通の独身男性というのは驚きですね。たぶんスターバックスアタッシュケースからマックブックを取り出しパワーランチしているタイプだと思いますよ(笑)

*6:なお、http://rx-oyaji.txt-nifty.com/blog/2006/04/post_071c.html を見る限り、2006年の段階では、マミーポコにもSサイズがあったようです。ムーニーブランドのイメージチェンジと、マミーポコブランドからSサイズをなくすという両施策は連動したものと考えられます。

*7:単純に成長度表示のほうが優れているのであれば、(コストかかるわけではないので)両方に採用すればいいのですからね。